上肢への施術②‥‥小指球と母指球への施術

 掌の手首近くには筋肉でできている膨らみがあります。母指側(橈側)の膨らみを母指球、小指側(尺側)の膨らみを小指球と呼びます。
 小指球は短小指屈筋と小指外転筋の起始部になりますが、尺側手根屈筋および尺側手根伸筋の変調に大きく関係します。
 母指球は短母指外転筋と短母指屈筋と深部にあります母指対立筋の起始部ですが橈側手根屈筋、腕橈骨筋の変調に大きく関係します。

 

小指球と尺側手根屈筋、尺側手根伸筋

 小指球が硬くこわばっている人はたくさんいます。それは、私たちがいかに手を使っているかを物語っています。
 物を握ったり手指を動かす動作を支えるために小指側の筋肉を働かせていることが多いからだと考えられます。
 上図は小指球および小指における注目すべきツボです。表面的に触っただけでは何も感じないかもしれませんが、これらのツボの奥は硬くなっている人がたくさんいます。
 さて小指球において、掌側の硬結は主に短小指屈筋(とその奥にある小指対立筋)です。このこわばりは尺側手根屈筋に連動しますが、それは上腕二頭筋短頭、大胸筋、腹直筋、大腿直筋、長母趾屈筋へと連動しますので、からだのセンターラインを整える意味で、小指球のこわばりを解消することは重要です。
 陽谷(ようこく)と腕骨(わんこつ)は小指外転筋にありますが、小指外転筋のこわばりは尺側手根伸筋に連動します。それは上腕三頭筋長頭、脊柱固有筋群(側線1)に連動し、仙骨を経由して半膜様筋、長母趾伸筋へと連動します。
 また、陽谷・腕骨・少沢(しょうたく)のツボは、筋連動とは別の効用をもたらしますので、小指球の中での小指外転筋のこわばりに対しては、「筋連動とツボ」という両方の観点で着目する必要があります。

母指球と母指と示指と合谷と第一背側骨間筋

 私たちの手作業の多くは母指と示指が中心になっていますので、母指と示指を動かす筋肉はこわばりの傾向にあります。
 母指の末節を屈曲する筋は長母指屈筋であり、その筋腹は前腕にありますが、一般的に、親指を使って物を掴む、圧する、支えるという動作では、長母指屈筋よりも短母指屈筋を多く使います。ですから母指球を構成している短母指屈筋がこわばっている人がたくさんいます。
 また、母指を捻る動作では短母指外転筋と母指IP関節(ツボの少商(しょうしょう)近辺)を使いますので、短母指外転筋、少商付近がこわばります。実際、母指末節が捻れていてIP関節付近が強くこわばっている人がたくさんいます。スマホを母指で操作したり文字入力したりしている人は必ずと言っていいほど強くこわばっています。
 そしてこのラインのこわばりは腕橈骨筋のこわばりに繋がり、前鋸筋のこわばりに繋がりますので、肩甲骨が前に出てきて猫背気味になったり、肩甲骨が首から離れてしまいますので僧帽筋や肩甲挙筋や小菱形筋がこわばった慢性的な肩こりに繋がります。呼吸も悪くなり、眼の見え方も悪くなりますし、かかと重心の原因になることもあります。

 「合谷(ごうこく)」は大変有名なツボですが、それは第1背側骨間筋にあります。私たちは日常的な手作業で第1背側骨間筋を大変多く使いますので、こわばっている人がたくさんいますし、そのこわばりは実は大変強かったりします。そして第1背側骨間筋は第1、第2肋骨と関係がありますので、第1背側骨間筋がこわばっていて第1肋骨、第2肋骨が外側にズレているため斜角筋がこわばり、咀嚼筋がこわばって頭痛になっている人なども多くいます。

 第一背側骨間筋は表層部分はこわばっているように感じなくても奥の方が強くこわばっていますので、合谷も含めて念入りに施術すべきポイントです。
 また筋肉としては第一背側骨間筋ではありませんが、示指中手骨の掌側部分がこわばっている人もかなりいます。

手首の状態や手指のぐらつきに注意

 手に必要以上に力を入れて作業をしている人は、母指球や小指球などの屈筋が強くこわばります。すると手首の関節で手が前腕の骨に対して掌側にずれる可能性が高くなります。。
 また、母指がCM関節で不安定になっていたり、手指の中手骨が不安定だったり、MP関節で指が抜けそうな状態になっていたりしている場合も多々見受けられます。過去にバレーボールやバスケットボールなどの競技を行っていたりする人は「突き指」の経験がある可能性が高いのですが、するとDIP関節が不安定で捻れていたりします。
 これらの不安定さは大なり小なり必ずからだに影響を与えていますので、修正する必要があります。

橈骨と尺骨

 「橈骨と聞けば腕橈骨筋と母指、尺骨と聞けば尺側手根屈筋と尺側手根伸筋と小指と小指球」とまず思い浮かべてください。そして橈骨と尺骨はシーソーの様な関係で「一方が下がれば他方が上がる」という特徴もあります。さらに前腕の中心は尺骨ですが、尺骨は長母指伸筋と長母指外転筋と示指伸筋の影響を受けて捻れやすいという特徴もあります。
 個性の違いを超えて尺骨頭が大きく突出していたり、橈側に寄ったりしている場合は、尺骨が捻れている可能性があります。左右の尺骨頭の在り方を比べてみてください。

 長母指屈筋および示指伸筋がこわばる理由として、母指と示指の指先の歪みによる場合があります。指先の使いすぎや、指先に力を入れ続ける動作が継続した場合、長母指屈筋や深指屈筋の示指が強くこわばってしまうことがあります。あるいは橈骨が肘の方に引き寄せられている状態が常態化しますと長母指屈筋および深指屈筋の示指がこわばります。すると母指と示指の末節は掌側にずれます。それによって長母指伸筋あるいは示指伸筋がこわばり尺骨を引っ張ってしまう場合があります。そしてこういう人はかなり多いです。ですから尺骨が歪んでいるときは母指先と示指先の状態をまず確認するのがよいでしょう。

 前鋸筋がこわばりますと、それは腕橈骨筋のこわばりに繋がり、橈骨を肘の方に引っ張ります。すると尺骨が下がって小指外転筋がゆるんで手を握る力が弱まったり、あるいは尺側手根伸筋がこわばって上腕三頭筋長頭のこわばりつながり、それによる影響が現れるということも起こります。
 あるいは仙骨が歪んで脊柱固有筋群(側線1)がこわばりますと、徐腕三頭筋長頭がこわばり尺骨を引き上げ、反対に橈骨が下がって手首が歪んだり母指の動きが悪くなったり、いろいろな影響が現れます。

 以上、体幹の筋肉と上肢の骨格と筋肉の関係、手指や手の筋肉との関係などを頭に入れながら、手指を観察し、前腕を観察し、上腕を観察し、三角筋や回旋腱板を観察することが大切です。
 手は手、腕は腕‥‥とやり過ごさず、一連の関係性を確認する習慣を付けましょう。今のレベルでは「大変な作業」、「難しい作業」と感じるかもしれませんが、粘り強く対応してください。

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