脊椎の観察(その1)

 一般的に“背骨”と呼ばれている脊柱は、脊椎と呼ばれる椎骨が繋がった存在です。脊椎は頚椎7個、胸椎12個、腰椎5個という数で構成されていますが、一つ一つが独立していますので容易に動きます。ですから背骨は“歪んで当たり前”の存在です。まずこのことをしっかりと理解してください。 「背骨が歪んでいるなんておかしい」というのは適当ではありません。多少歪んでいるのが背骨(脊柱)の実態です。

 ところで脊柱は体幹(胴体と頭部)の基礎であり支えであると考えてられます。脊柱の中には中枢神経である脊髄が通っていますが、脊椎と脊椎の間から脊髄の末梢神経が出ていてからだを動かしたり、全身の知覚として働いています。

 さて、この胴体の支えであります脊椎は普段の姿勢、からだの使い癖、内臓の調子などによっていろいろと動きます。動くというのは“上下左右前後に少しずれる”ということでももありますし、その場で“向きを変える”こともあります。
 そして、すべての人の脊柱は大なり小なり歪んでいます。その歪み(脊椎のズレや向き)が許容班内にあれば、特別に症状を現すこともなく問題はありません。歪み方が許容範囲を超えますと、違和感を感じたり不調や不具合をもたらす原因になりますし、歪み方がひどくなって、さらにその状態が慢性化しますと、”側弯症”などと呼ばれたりして、病的な状態になることもあります。

(1)頚椎の見方のポイント

 頚椎は7つありますが、上・中・下の3つに分けて考えるのが良いでしょう。

頭部から見て椎骨が時計回り(右回り)のときCW(ClockWise)と簡略して呼びます。反対に、反時計回り(左回り)のときはCCW(CounterClockWise)と呼びます。

①頚椎1と頚椎2番

 一般に上部頚椎と呼ばれる部位で、後頭骨を介して頭部と顔面の状態に深く関係します。
頚椎1番と2番は反対の歪みになる傾向があります。1番がCWであれば2番はCCWという感じです。
上部頚椎は後頭下筋群と直に繋がり、肩甲挙筋、中斜角筋と繋がっています。また前方では頭長筋などと繋がっています。
 さらに頚椎1番は目の動きや噛み方の影響を受けて動きますので、眼の偏りや片噛み癖などによって変位している場合があります。
 たとえば右ばかりで噛んでいる人は右のそしゃく筋がこわばりますが、同時に頚椎1番が右にずれます。すると頚椎2番は左側にずれますが、この状態は首を左側に向く動作のし始めの時に痛みを発したり運動制限を強いられるようになります。

②頚椎4番

 7つある頚椎の中程は“耳を傾ける”動作に関与しますが、耳の状態に影響を与えるという見解もあります。
 頚椎4番には肩甲挙筋と3つの斜角筋が繋がっていますが、後斜角筋が影響を及ぼしているケースが多いかもしれません。平衡感覚も含めて耳の不調には頚椎4番を整える必要があります。

③頚椎7番

 頚椎7番は胸椎1番との接点であり、首の運動の起点になるところです。頚椎7番の状態が良くなければ、首の運動はスムーズに行えなくなります。
 頚椎6番も含めて小菱形筋の起始部ですから、その影響を受けます。あるいは小菱形筋に影響を及ぼします。また肩甲挙筋がこわばりますと頚椎7番が引き寄せられるという現象が起きます。眼精疲労などでコメカミが硬くなりますと、同側の肩甲挙筋がこわばって頚椎7番が同側に引っ張られるように歪むことがあります。

(2)胸椎の見方のポイント

 胸椎は12個あります。胸椎には肋骨が繋がっていますが、胸骨と合わせて胸郭を形成しています。
 「胸は全身のセンサー」として機能しています。外的な一々や心理的な一々に反応して胸郭は動きます。ですから胸椎も「歪みやすい」といえます。

①胸椎1番と2番

 胸椎1番と2番は斜角筋と繋がっていますので、そしゃく筋の影響を受けやすいと言えます。また、そしゃく筋を整える上で、この二つの胸椎は目安になります。

②胸椎3~5番

 第3~5胸椎は胸部の1番感じやすいところに当たります。
 傾向として、右利きの人はこれらの胸椎がCCWになっていて、右肩甲骨が外転しています。右前鋸筋がこわばり肩甲骨を外転させ、大菱形筋がこわばって胸椎をCCWの状態にしているとも考えられます。あるいは胸椎がCCWの状態になっているので、大菱形筋がゆるんで肩甲骨が外転しているのかもしれませんが、施術では的確に見分ける必要があります。

③胸椎12番

 胸椎12番は腰椎との境であり、状態を確認すべきポイントです。
 僧帽筋は胸椎棘突起の全部を起始としていますが、下部線維の状態を観察するときには胸椎12番が目安として役に立ちます。
 例えば胸椎12番がCCWの状態になったり、あるいは棘突起が右側にずれますと左側の僧帽筋下部線維がこわばって肩甲骨を引き下げる状態になったりします。同時に右側の僧帽筋下部線維がゆるんで肩甲骨が上にずれたりします。
 反対に僧帽筋下部線維がこわばりますと、胸椎12番棘突起を同側に引っ張ります。

 

(3)腰椎の見方のポイント

 腰椎は5個あります。胸椎は肋骨及び胸骨と連携して胸郭を形成していますので、互いに補い合い助け合うことができますが、腰椎にはそのような関係にある骨格はありません。ですから、大腰筋、腰方形筋、脊柱起立筋、腰背筋膜、広背筋などの強力な筋肉が周囲に存在して腰部の強さを保持しています。それ故、腰部の筋肉はこわばりやすいので私たちには腰痛を発症しやすいという側面があります。

 腰椎の棘突起は一つ一つが確認しやすいので、一つ一つを丁寧に確認することが求められます。そして、腰椎全体としての捻れ具合、上下への動き、凹み具合あるいは突出具合などを確認し、一つ一つの椎骨の向きも確認する必要があります。

①大腰筋との関係

 大腰筋の起始部は腰椎の前面(椎体と肋骨突起)になりますので、大腰筋の変調によって腰椎の向きが変わります。
 腰痛に対する施術では、必ず確認して修正する必要があります。

②腰椎4・5番と仙骨の関節(腰仙関節)部分は骨盤と脊柱との関係を決める土台

 この部分は胸腰筋膜と腰背腱膜が厚く覆っているため、さらに太った人の場合、脂肪組織なども厚く棘突起を直に触るのが難しいこともあります。しかしながら、体幹を整えるためには大切な部分ですので、指先の感覚を養って対応できるようにならなければなりません。
 また、腰椎椎間板ヘルニアと診断される場所のほとんどは、腰椎4・5番間、あるいは腰椎5番と仙骨の間の椎間板になりますので、椎間板ヘルニアに対する施術では、必ずこの部分を整えなければなりません。
 傾向として、腰椎5番と仙骨の間(腰仙関節)が狭くなっている場合(腰椎5番が下がっているなど)は、腰椎4・5番間は拡がり、腰椎4番が上がっていることがあります。腰椎4番が下がって、腰椎5番との間が狭くなっている場合は、仙骨が下がっていて腰椎5番が上に動いている傾向があります。
 また、腰椎4番、腰椎5番、仙骨がジグザグに捻れていることもあります。
施術におけるヒントは、それらの中でどれを正せば3つの関係が改善するのか見極めて修正することです。

③腰椎の上下への動きを観察する

 両側の大腰筋がゆるんだ状態になりますと腰椎は上に動きます。あるいは上を向きます。
 腰椎が上に上がった状態では“からだを支える脊柱としての腰椎部分が不安定”の状態です。ですから腰部が不安定になって力が入らなくなる、あるいは腰椎の不安定さを補うために、脊柱起立筋、腰方形筋、内腹斜筋などがこわばってしまい、それによる症状が現れる可能性があります。
 腰椎が上を向いた状態では上半身の前傾や前屈がスムーズに行かなくなります。

 大腰筋あるいは腰方形筋がこわばりますと腰椎は下に引っ張られ下がります。その状態は腰椎間に余裕がなくなる状況ですが、そのため腰部にしなやかさはなくなります。腰椎が一本の棒のように感じるかもしれません。
 また、大腰筋が強くこわばりますと腰椎が下を向きますが、腰椎の前弯が大きくなったり腹部の伸びが悪くなったりします。

④腰椎の前弯、後弯を確認する

 猫背の姿勢は骨盤が寝た状態(後傾)ですが、その姿勢を続けていますと腰椎の前弯はなくなり腰椎3~5番あたりが後弯になってしまうことがあります。この状態では上半身を反らすことが苦手になり、背筋を伸ばして姿勢を正そうとするときには胸椎12番~腰椎1・2番あたりを支点に脊柱を反らすようになります。このような人達は座位で骨盤にからだを預けられないために、長内転筋に力を入れて座位を保ち、背筋をのばすために首肩顔に力を入れてしまいます。首・肩のこり、頭痛、首痛、呼吸が浅くて息苦しいなどの症状を招く可能性が高くなります。
 腰椎の後弯を修正することは時間のかかることですが不可能なことではありません。仙骨をはじめ骨盤底の状態を改善する施術や運動を行い、座位で骨盤が立つ状態になることをまず目指します。

 脊柱起立筋の最長筋(側線2)や腸肋筋(側線3)が強くこわばった状態を続けていますと、胸椎から腰椎にかけての前弯が強くなり、両側の硬い脊柱起立筋がボーンと突っ張って、腰椎が埋もれてしまうような状態になることがあります。この状態を続けていますと腰椎分離症や腰椎スベリ症になる可能性が高まります。

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