骨格の歪みを、からだを整えるための指針とする

 一般的な整体やカイロプラクティックなどでは、からだを整えるための直接的な手段として、骨格調整を行うようです。つまり、ボキボキ、バキッ、という方法です。
 ところが、現在学んでいる整体の考え方はまったく異なっています。
「骨の位置を決めるのは筋肉であり、筋膜や靱帯といった軟部組織である」と考えています。そして、「骨の様々な状態は、軟部組織の状態を知るための道標である」と考えます。

 例えば「側弯症」という状態があります。背骨が大きく弯曲してしまう症状ですが、からだの成長や内臓の働きに悪影響を与える可能性が高いということで、小学校高学年から中学生の頃の身体検査項目に指定されています。その検査で、側弯の具合が許容範囲を超えて悪化したことが確認されますと、コルセットの装着によって側弯が進行しないように対処するとが指導されるようです。
 これは骨だけを見ているので、このような対処方法しか見いだせないという典型的な例です。「骨格が歪んでしまったのは何故なんだろう?」という観点が欠落しています。
「どういう仕組みで背骨が歪み始め、そしてその歪みが悪化してしまったのだろう?」という最も素朴な疑問を置き去りにして、「状態がこれ以上悪化しないように強制的に骨の動きを抑え込んでしまおう」という考え方になってコルセット装着という手段を用いるのであれば、それは基本的に合理性に欠ける行いです。「どういう仕組みで‥‥」が追求されて答えが導かれれば、「では状態を悪化させないために○○しよう」という合理的な対処法が導かれます。

 整形外科でコルセットを装着させるのも、整体やカイロプラクティックで骨をボキボキと動かすのも、どちらも症状に至った原因の追及は「行わない」という態度です。それでは解決に向かうはずがありません。
 ですから、私たちが背骨や他の骨格の歪みを目の当たりにしたときに、まず思考を巡らせなければならないのは、「何が原因で歪み始めたのだろう?」ということです。可能性を考えなければなりません。「何かのケガがきっかけだったのだろうか?」「食事での噛み方や目の使い方の偏りが原因で歪みが始まったのだろうか?」「病気だったのだろうか? それとも遺伝性のものなのだろうか?」
こういうことを考えて施術を進めるのか、あるいはそんなことはどうでもよくて、単に歪んだもの修正しようとするのか、それは、あなたがどういうセラピストになるのかを決定する最も根本的な場面です。

背骨と骨盤(仙骨)と頭蓋骨(後頭骨)

 さて、私たちのからだにおいて基本は体幹であり骨盤でから、具体的には背骨と仙骨と後頭骨の在り方が基本となります。背骨が歪むと体調は崩れますし、体壁系にも不具合が現れます。また反対に、体調が崩れたり、体壁系に不具合がある場合も背骨が歪みます。そしてこの場合、仙骨と後頭骨も背骨の中に含まれます。


 施術の実際に進む前に、背骨に関する基本的な知識を認識しましょう。
 背骨を持っている動物を脊椎動物と呼びますが、それは今から5億年ほど前に誕生したと考えられています。それまでは背骨がなく、一つの袋のような体形の中に必要な内臓器官が内在している単純な生命体でした。
 その後、背骨ができたことによって尻(骨盤)と頭がすっかり分かれた体形の魚が誕生しました。

 頭と骨盤の間に距離ができたことによって背骨が形成され、その腹側に長い一本の腸管を持つようになりました。そして腸管の頭部近くのところを吸収の場所(エラ呼吸と口~胃)として使い、中ほどを消化と吸収と代謝(十二指腸、膵臓、小腸、肝臓など)の場所として使い、骨盤に近い部分に排泄と生殖関係の器官(大腸、腎臓、肛門、生殖器など)を持つ脊椎動物としての基本構造ができあがりました。


 その後、脊椎動物は海から陸に上がって肺呼吸をするようになりなりますが、両生類から爬虫類、哺乳類と進化が進む過程で内臓器官の配置も少しずつ変化し、様々なマイナーチェンジを行ってきました。しかし基本的な構造は魚の時代から大して変化はしていません。
 私たち人間も背骨をもった脊椎動物であり、その中の哺乳動物です。四つ足の哺乳動物は背骨が地面に対して平行な状態が基本ですがが、私たちは二足歩行に進化したために、背骨を垂直に使う時間が長くなりました。ですから各内臓器官に対する重力の掛かり方がそれまでとは大きく異なるようになりました。それゆえ胃下垂や内臓下垂などの症状がしばしば起こるようになりますし、四つ足動物ではほとんど起こらない症状も起こるようになったのだと思われます。

東洋医学では背骨を脊椎動物の象徴として捉えている

 東洋医学の特徴の一つに「経絡」「経穴(ツボ)」を利用して内臓の働きを整えるというのがあります。つまりツボや経絡は「自律神経に働きかける窓口である」という考え方です。そして、背中のツボ(腧穴)は指圧などで刺激することによって体調を整える効果が高いとされています。


 例えば胸椎3番と4番の間、背骨から3㎝ほど離れたところには肺経のツボである「肺兪」がありますが、喘息の発作時などは、この部分が凹んでしまうことがあります。気管支が狭まったようになり息苦しさを感じますが、肺兪を中心にその周辺を擦ったり揉んだりしますと気管支が拡がって楽になることがあります。
 そして私たちが注目すべきことは、背中の上部から骨盤に向かって位置している腧穴の順番が、哺乳動物の内臓の位置にほとんど符合している点です。
 胸椎7番と8番の間にあるのが「膈兪」ですが、それは横隔膜のツボであり、横隔膜の上部に肺と心臓と心包(心膜)があり、横隔膜の下に肝臓と胆嚢、胃と消化器系(脾=膵臓、十二指腸)、腎臓と膀胱と大腸など排泄系のツボが並んでいます。
 現代医学的に自律神経の働きを追っていきますと、基本的に内臓の働きを強める(機能亢進)のは副交感神経になりますが、その経路は脳幹の迷走神経と仙髄からの神経の二手に分かれています。(かつて背骨ができる以前、頭と骨盤が一つのものであったことがわかります。)背骨に沿って存在している自律神経は交感神経ですが、それは血管の働きをコントロールするための神経であると考えられますが、胃や肝臓や小腸など内蔵機に対してはその働きを抑制させる働きをします。そしてこれら副交感神経と交感神経の神経管の走行を追っても複雑でよく理解できません。
 つまり‥‥、例えば胃の働きが悪くなったのを自律神経を操作して改善しようとしたとき、どの神経線維をどうそうすればよいのか、よく解りません。
 東洋医学の腧穴の方が極めて単純で、利用することも操作することも簡単です。その意味で、実際の臨床的には、東洋医学的な観点で背骨とその周辺を観察して修正するように施術を進めた方が効率的であると考えます。

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