筋肉の連動、協働筋と拮抗筋の役割

 私たちのからだには400を超える筋肉があります。そして私たちが何かの動作をするときには、これらの筋肉が「連動」と「協働」と「拮抗」いう仕組みによって働き、その動作がスムーズに支障なく行われるようになります。
 例えば、肘を曲げる動作では、主動筋として働くのは上腕二頭筋であり上腕筋ですが、腹部の腹直筋・外腹斜筋・内腹斜筋、大腿部の大腿直筋・外側広筋・長内転筋などの筋肉も収縮します(協働筋)。また伸筋である上腕三頭筋やそれと連動する筋肉が弛緩伸張して肘を屈曲することが楽にできるようになります(拮抗筋)


 仮に、上腕二頭筋に連動する腹直筋と外腹斜筋、あるいは大腿直筋と外側広筋などに変調があって、どれかが収縮できない状態になりますと肘を屈曲する力が弱くなります。つまり、連動して働いてくれる協働筋の力が得られなければ“力が弱くなってしまう”という事態になります。
 あるいは、弛緩伸張して動作に協力してくれる上腕三頭筋など拮抗筋にこわばりの変調があって伸張することができなければ、肘を屈曲するのに必要以上の力が必要になったり、拮抗筋が伸びないので痛みを感じたり、あるいは動作そのものができない状態になってしまいます。

動作における痛み

○収縮できない状態(=ゆるみ過ぎの変調)なのに、収縮させようとすると筋肉が余った状態になり、それが押しつぶされた形になって痛みを発する。
○弛緩伸張できない状態(=こわばりの変調)なのに、それを伸ばそうとすると痛みを発する。痛みの原因としては最も多く、圧痛もこの中に含まれる。

支えがあるので動作を行うことができる

中心ラインと外側ラインの主な役割

 私たちがセラピストとして常に頭に入れておかなければならない鉄則があります。それは「支えがしっかりしているのでスムーズな動作が可能になる」というものです。
 例えば、筋肉は起始部の骨を足場として自分自身を収縮したり伸張したりして停止部の骨を動かしからだの動作を実現します。ですから動作の支えは起始部の骨格です。起始部の骨格は筋肉が働くための足場です。もし、この足場である骨格がフラフラ不安定な状態ですと、筋肉は上手く働くことができないだけでなく常に緊張状態(=こわばり状態)になってしまいます。例えば私たちが足場が非常に不安定な吊り橋などを渡ろうとしますと、精神的にも緊張しますし、両手に力入れて綱を離すまいとしたり、下半身にも力が入ってしまいます。よっぽど馴れない限り、リラックスして吊り橋を渡ることなどできません。
 筋肉の状態も、これと全く同じだと考えてください。足場が不安定であれば常に緊張していなければなりませんので、自らの能力を十分に発揮することなどとてもできません。

 さて、私たちの全身においてもこの道理は適応されます。私たちの動作の多くはからだの内側から外側に向けての運動になりますが、からだの中心ラインがしっかりしていることで外側への動作がスムーズに行われる原理があります。 例えば手で字を書く動作では、実際にペンを操作するのは母指と示指、つまり手の外側の指ですが、リラックスした状態でペンを操作するためには、小指や薬指を中心とした中心ラインが支えとしてしっかりしている必要があります。
 字を書く時の筆圧の高い人は母指と示指に強い力が入っているわけですが、それではスラスラとペンを動かすことはできません。動作を支えながら同時に同じ指でペンを操作しなければならないので、緊張状態になってしまいます。字を書くだけで疲れますし、肩こりも強くなるのだろうと思われます。もし、「小指側で支えて母指側で動かす」という役割分担がしっかりできる状態であれば、手指に必要以上に力を入れることもなく、リラックスした状態で字を書き続けることができますので、疲れにくいですし、首や肩が凝ることもないでしょう。
 このようなことはすべての動作において共通していることです。歩く動作では、片脚立ち状態を交互に繰り返すわけですが、軸脚になる方の脚がしっかりからだを支えることができるので、反対側の脚を楽に浮かせて前に踏み出すことができます。もし、仮に右足首を挫いてしまい右脚が不安定な状態になりますと、ゆったり左脚を前に出すことができなくなってしまいますので、すぐに左足を着いてしまうバランスの悪い歩き方になってしまいます。
 ですから必ず頭に入れておいていただきたいことは、繰り返しになりますが、「動作をスムーズに行うためには支えがしっかりしている必要がある」ということですし、セラピストとして精進するためには、私たちは動作を観察したときに瞬間瞬間で、「何が動作を支えているのか」を見抜く能力を養う必要があります。

 「常にそれがあてはまる」というものではありませんが、ガイドラインとそて言えば、からだの中心ラインが支えであり、その筋肉がしっかりしているので外側ラインの筋肉が軽やかにスムーズに働くことができる、と言うことができます。
 以下に、だいたいの目安として中心ラインと外側ラインの筋肉を列挙しますが、これらは常に正確であるというものではありません。同じ筋肉でも筋線維の場所によって連動が変わってしまったり、その他の状況で連動が変わることは常にあることです。
 例えば腕橈骨筋や長腓骨筋などは伸筋として働いたり屈筋として働いたりすることがあります。

中心ライン屈筋

  • 短小指屈筋~尺側手根屈筋~上腕二頭筋短頭~大胸筋(鎖骨部)~腹直筋~内側広筋・大腿直筋(伸筋)~ヒラメ筋内側線維~長母趾屈筋・短母趾屈筋

外側ライン屈筋

  • 短母指屈筋・短母指外転筋~腕橈骨筋・橈側手根屈筋~上腕二頭筋長頭~ 三角筋(前部と中部)~前鋸筋・外腹斜筋~大腿筋膜張筋・外側広筋~  腓骨筋・前脛骨筋~長趾屈筋・短小趾屈筋

中心ライン伸筋

  • 小指外転筋~尺側手根伸筋~上腕三頭筋(長頭・内側頭)~三角筋(後部)~脊柱固有筋群(側線1)~中殿筋~大内転筋・半膜様筋~長母趾伸筋

外側ライン伸筋

  • 腕橈骨筋~上腕三頭筋外側頭~棘下筋~広背筋・脊柱起立筋(腸肋筋など)~小殿筋・梨状筋~大腿二頭筋~長趾筋筋・第3腓骨筋~小趾外転筋

影響部と被影響部を検査する

最終的な影響部を特定する
 筋肉は連動しますので、何処かの筋肉が変調しますと必ず連動する筋肉にも同じ変調が現れます。
例えば、腰痛で、上半身を右に捻ると左腰が痛くなるとします。それは左の腸肋筋(側線3)にこわばりの変調があって腸肋筋が伸びない状態なのに上半身を右に捻って伸ばそうとするので痛みを発しているという状況です。
 この人が左腰(腸肋筋)を使いすぎて筋肉がこわばってしまい、そのような状態になったのであれば、その腸肋筋を指圧したりマッサージしたりしてほぐし、変調を解消することで腰痛状態は治まり、上半身を右に捻ることも楽にできるようになります。ところが実際には、このようなことはほとんどありません。左腰を使いすぎて変調ができたのではなく、何か別の原因で左腰の腸肋筋にこわばりの変調ができてしまったのです。現実的にはこのようなケースがほとんどです。
 腸肋筋と連動する筋肉は、骨盤や下肢の方では、梨状筋、半腱様筋、腓腹筋外側頭、短趾屈筋です。上肢に向かう方では、棘下筋、上腕三頭筋外側頭、長橈側手根伸筋といったところです。腸肋筋にこわばりの変調があるのであれば、これらの筋肉にもこわばりの変調があります。
 では、どの筋肉のこわばりが大元の原因で、関連する筋肉にこわばりができてしまったのでしょうか? それを確かめるためには変調同士を比較検査する必要があります。
 例えば、腸肋筋のこわばりと梨状筋のこわばりを比較してみます。腸肋筋のこわばりを引き伸ばしてゆるめたときに梨状筋のこわばりもゆるむようであれば腸肋筋のこわばりが影響部で、梨状筋のこわばりはその影響を受けてこわばってしまった被影響部になります。
 腸肋筋のこわばりをゆるめても梨状筋のこわばりに変化が無いのであれば、反対の検査を行います。梨状筋のこわばりを引き伸ばしてゆるめたときに腸肋筋のこわばりがゆるむのであれば、梨状筋の方が影響部で腸肋筋が被影響部になります。(但し、骨盤など骨格が歪んでいることで腸肋筋も梨状筋もこわばっている場合もあります。そういう場合は、骨格の歪みが影響部で腸肋筋も梨状筋も被影響部ということになります。骨格を修整することで筋肉の変調が解消しますが、この仕組みについては後日勉強します。)
 このような方法で梨状筋と半腱様筋の変調、半腱様筋と腓腹筋の変調‥‥と検査していき、最終的な影響部を特定してきます。
 腓腹筋外側頭のこわばりが最終的な影響部で、その理由は拮抗する腓腹筋内側頭をケガしてゆるみ過ぎの変調ができたために外側頭の方がこわばってしまったということも十分にあり得ます。ですから常に「連動筋」と「拮抗筋」を頭に入れながら検査を進めていかなければなりません。

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