”肩こり”は”腰痛”とともに、最も訴えの多い症状です。(肩こり=女性1位、男性2位)
ですから、私たちはセラピストとして、肩こりに対する対処法は確実に修得する必要があります。
一般の人が”肩こり”を訴えるとき、私たちはそれをいくつかに分類して考える必要があります。
まず、”凝り”と”張り”を混同して訴えてくるケースがほとんどですから、それをしっかり区分けする必要があります。
そして、”肩こり”という漠然とした訴えに対して、「どの筋肉」あるいは「どの辺りの筋膜」のことを指しているのかを確定させる必要があります。
つまり、どの筋肉・部位(筋膜)の凝り、あるいはどの筋肉・部位のこわばり(=はり)を解消する必要があるかを認識するところから施術が始まります。
”こり”と”はり”の区別
私たちは専門家として、”こり”と”はり”の区別を明確にする必要があります。
こり
筋肉の変調が強いわけではないが、内部の水分(老廃物)が溜まって抜けていかないので中身がパンパンになり太く硬くなってしまった状態のことと定義します。
その筋肉を包んでいる被包筋膜の状態が悪かったり、あるいは特定の筋肉ではなく、そのあたり(部位)の皮下筋膜の状態が悪くて静脈やリンパの流れが停滞してしまい、内圧が高まってしまっていると考えることができます。
対処法としましては、揉みほぐしなどの手技によって、被包筋膜(筋肉)と皮下筋膜を調整して(やわらげて)、内部に停滞している水分(血液とリンパ液)と老廃物を流し去るようにします。
強い”こり”が次第にやわらいでいくとき、施術の受け手(顧客)は心地よさや気持ちよさを感じますので、副交感神経優位の状態になり、からだがリラックスしていきます。
※なお、揉みほぐし以外にも、内圧の高まっている部分近くの変調を解消することで、中の水分が流れ出し、”こり”が改善される場合もあります。
はり
筋肉や筋膜がこわばっている場合です。
本人の体感として”こり”との違いは「動かしづらい」と感じる症状です。
筋肉によって原因と対処法が異なりますので、しっかりと明確に覚える必要があります。
僧帽筋のこわばり
- 肩甲骨が本来の位置より背骨から離れている場合
- 鎖骨の位置がおかしい場合(上部僧帽筋)
- 頚椎および胸椎の歪みが原因の場合
- 上肢のこわばった筋肉からの連動でこわばっている場合
肩甲挙筋のこわばり
- 目の使いすぎ、眼精疲労などにより連動してこわばっている場合。
- 頚椎が歪んでいる場合(C2の棘突起の向きは大いに関係する)
- 筋連動の関係によるこわばり(前脛骨筋~外側広筋が「ゆ」の場合など)
- 肩甲骨の位置がおかしい場合(肩甲骨が後ろにずれている場合などに注意)
小菱形筋のこわばり
(小菱形筋は肩上部にありますので、肩こりの範囲に入ります)
- 肩甲骨が脊椎から離れている場合
- 小胸筋、薄筋などの筋連動によってこわばっている場合
- 拮抗筋である大菱形筋がゆるみ過ぎの状態にある場合
肩甲舌骨筋のこわばり
※肩甲骨上辺の中央部辺りが盛り上がっていたり、こわばっている場合、それは肩甲舌骨筋のこわばりである可能性があります。
- 肩甲骨の位置が歪んでいる場合
- 舌骨の位置が歪んでいる場合
- 発声に関連して舌骨周辺がこわばっている場合
棘上筋のこわばりと硬結
棘上筋は実は厚みのある筋肉ですが、硬くなっている人がたくさんいます。
棘上筋がこわばっていたり硬くなっていても、普段それを”肩こり”と感じる人は少ないかもしれません。ところが揉みほぐしますと、その硬さや重さを実感するようになり、それが改善されますと”肩がスッキリして軽くなる”と感じると思います。棘上筋の硬結は”肩こりの芯”のような感じかもしれません。
三角筋のこわばり
三角筋は直接的に肩こりには関係しませんが、こわばることによって鎖骨あるいは肩甲骨を上腕の方に引っ張りますので、僧帽筋と肩甲挙筋と肩甲舌骨筋には影響が及ぶ可能性があります。
また、三角筋の起始付近が強くこわばっている人が多いのですが、それを揉みほぐすことによって肩こりが楽になるケースがあります。
斜角筋のこわばり
斜角筋は頚部の筋肉ですが、起始は第1、第2肋骨ですので、この筋肉群のこわばりを”肩こり”、あるいは”首のこり”と感じることが多いようです。
また、そしゃく筋と連動しますので、噛みしめなどによってそしゃく筋がこわばっている場合は斜角筋のこわばっています。
- 第1肋骨の位置がおかしい場合‥‥前斜角筋と後斜角筋
- 第2肋骨の位置がおかしい場合‥‥後斜角筋
- 咬筋のこわばりと連動‥‥前斜角筋と後斜角筋
- 内側翼突筋のこわばりと連動‥‥中斜角筋
- 頚椎が歪んでいる場合
上後鋸筋のこわばり
肩こりの中で、上背部にいつも強い圧迫感を感じる症状があります。一時的な症状であれば、菱形筋のこわばりによる可能性が高いのですが、慢性的なものになりますと、それは上後鋸筋のこわばりによる可能性が考えられます。
上後鋸筋がこわばる理由として、大胸筋や肋間筋のこわばりによって肋骨が歪んでいることが考えられます。上背部のこり(こわばり)ではありますが、前面の大胸筋や肋間筋の変調を解消することが決め手になる可能性があります。
その他のこわばり
頭皮、あるいは帽状腱膜や後頭下筋群、後頭筋、側頭筋などのこわばりが関連して首・肩のはりがもたらされている場合もあります。
首こり・肩こりに対する施術
揉みほぐしの要領
肩こりは、その程度によって施術に苦労する場合があります。
首も肩も背中もカチカチに硬くなっているために施術の手指がまったく入らず、「どうすれば良いだろうか?」と感じてしまう場合もあります。
また女性の施術者にとって、肉厚で、肩こりの強い男性は「太刀打ちできない」と感じてしまう場合もあることでしょう。
このような場合も含めて揉みほぐしの施術では、筋肉を直接ほぐすことから始めようとせず、皮下筋膜をゆるめることから始め、次第に筋肉の被包筋膜にアプローチできるよう施術を進めていくのが良いと思います。
皮下筋膜をアプローチすることによって血流が良くなりますと、皮下筋膜の硬さが弛みだし、少しずつ手指が皮下に入っていくようになります。
次の段階として筋肉にアプローチすることになりますが、この場合もいきなり筋本体の筋線維をほぐそうとするのではなく、先ずは筋肉を包んでいる筋膜(被包筋膜)を柔らかくして筋肉内の水分が流れ出すのを促すように施術を行います。
被包筋膜は、筋肉全体を包んでいる筋膜でもあれば、たくさんある筋線維を包んでいる筋膜でもあります。
まずは筋肉全体を包んでいる筋膜を柔らかくし、その上で硬くなっている筋線維を包んでいる筋膜を柔らかくするような感じで取り組むのが効果的かもしれません。
変調の確認
揉みほぐしの施術を行いながら筋肉の変調を確認することは重要です。
斜角筋はなかなか柔らかい状態にはなりませんが、その他の筋肉は”こり”状態が改善されますと柔らかくなります。それは施術しながら実感として感じ取ることができます。そして、そのような状態になりますと、筋肉の変調がはっきりと感じられるようになります。
筋肉はいくつもありますが、それらの変調がしっかり感じ取れるほどにまで揉みほぐすことが望ましいと言えます。そして、その変調は、揉みほぐしを継続しても解消できません。そのことを念頭に、どこまで揉みほぐしの施術を行い、どこで止めるかの目安とするのがよいでしょう。
但し、棘上筋は他の筋肉と違った様相を呈します。棘上筋の硬結はこわばりですが、深部のこわばりはなかなかとれません。表面のこわばりは揉みほぐすことによって改善します。(骨と骨の関係でこわばっている場合は別)
ですから、棘上筋はよく揉みほぐしたり指圧して、少なくとも表層部の硬結状態は解消するようにしましょう。
揉みほぐしの作業を続けながら、筋肉の変調状態を確認して次なる対策について考えるようにします。
変調に対する対処
①肩甲骨が脊椎から離れているケース
パソコン業務その他で猫背の姿勢が常態化して、上腕骨と肩甲骨が前に出ている人はたくさんいます。そして、このような人達のほとんどは前鋸筋がこわばっています。
前鋸筋のこわばりは肩甲骨を外側に歪ませますが、それによって小菱形筋、僧帽筋上部線維、肩甲挙筋がこわばってしまいます。
ですから、前鋸筋のこわばりを直に解消する施術が必要な場合もあります。
また、手指の使い方で腕橈骨筋がこわばり、それが前鋸筋のこわばりに繋がっている場合も多く見受けられます。
短母指外転筋の起始や母趾末節の捻れを確認して対処する必要があります。
あるいは円回内筋、方形回内筋、橈側手根屈筋などがこわばり、肘関節が捻れることで烏口腕筋や前鋸筋がこわばっているケースもあります。
下方からの影響では、長腓骨筋(足底の長腓骨筋腱、骨間筋)がこわばっていて前鋸筋のこわばりに繋がっている場合もあります。
②第6、第7頚椎の捻れが影響しているケース
頚椎の歪みや捻れは肩こり関連の原因になりますが、それだけでなく感覚器官の機能低下などいろいろとからだに影響をもたらします。
座位になったときに、右肩が上がって右小菱形筋がこわばり、加えて右後斜角筋がこわばって、第6・第7頚椎がCCWの状態になっている人がいます。右利きの人に見受けられことがしばしばありますが、このような人は右側の肩甲挙筋もこわばっていて、それを肩こりと感じているかもしれません。
このような場合、大概は足の使い方に問題があります。脛骨が外側に歪んでいることで薄筋がこわばり、それが小菱形筋のこわばりに繋がっていることもあります。
さらに、母趾を捻って使っていることで、右側の母趾外転筋~後脛骨筋~長内転筋~内腹斜筋とこわばりが連動して、右後斜角筋がこわばり、第6頚椎の捻れの原因になっていることも多くあります。
ですから、このような状態の人に対して肩上部や首をいくら施術してもまったく肩こり状態の改善は望めません。足を調整することが必要ですし、可能であれば足の使い方が変わるような施術も行うようにします。
③前脛骨筋~外腹斜筋のゆるみ過ぎは肩甲挙筋のこわばりを招く
肩甲挙筋と目は関連性がありますので、眼精疲労や外眼筋のこわばりによって同側の肩甲挙筋がこわばり、首の動きが制限されたり、第7頚椎が捻れ、それによって骨盤が歪んでしまう場合もあります。
肩甲挙筋がこわばってしまうケースは別にもあります。理屈はわかりませんが、外側広筋~前脛骨筋がゆるんだ状態になりますと肩甲挙筋がこわばります。
前脛骨筋がゆるんでいることにより偏平足、あるいはハイアーチ(後脛骨筋のこわばり)の状態になっているかもしれませんが、反対に長趾伸筋がこわばっていることによって小趾側が浮いているかもしれません。
歩行時に大腰筋や大内転筋を使って脚を前に出すことのできない人は大腿筋膜張筋を使って脚を前に出すようになりますが、この動作では第3腓骨筋や長趾伸筋がこわばる可能性が高くなります。すると、長趾伸筋と拮抗する前脛骨筋はゆるんだ状態になってしまい、肩甲挙筋がこわばってしまいます。
このような状態の人に対しては、足趾先など長趾伸筋のこわばりを揉みほぐすこと、あるいは長趾屈筋のこわばりを解消することで前脛骨筋の状態が良くなって肩甲挙筋のこわばりが解消するように施術を行います。
④胸鎖乳突筋のこわばりによって肩甲骨が後退して肩こり状態になる
胸鎖乳突筋は鎖骨に繋がっていますが、鎖骨は肩甲骨と一体化していますので、鎖骨が後退しますと肩甲骨も後退し、肩甲挙筋がこわばることになります。
胸鎖乳突筋は中斜角筋、内側翼突筋と連動しますので、その辺りを確認して対処する必要があります。
蝶形骨の状態、舌骨周辺の状態も影響を及ぼす可能性があります。
喉に力が入りやすい人は、舌骨周辺がこわばり、それによって内側翼突筋がこわばり胸鎖乳突筋のこわばりを招いている場合もありますので、舌骨周辺を直接ゆるめる施術が必要になる場合もあります。
また、後頭骨が上がった状態では乳様突起も上がり、胸鎖乳突筋がこわばります。この場合は、前頭骨から腹直筋までの状態や仙骨から後頭骨までの状態を確認して適切に対応することが求められます。
さらに、頭長筋がこわばっていますと、頭部(後頭骨)が前に傾き乳様突起が後方に離れて胸鎖乳突筋がこわばってしまうことも考えられます。頭長筋への施術も必要になる場合があります。
鎖骨と肩甲骨が後退している、あるいは首が前に出ていて相対的に肩甲骨が後退した状態になっている人は多くいます。
このような人は肩甲挙筋や僧帽筋上部線維がこわばって肩こり状態になるだけでなく、鎖骨下静脈の流れも悪くなりますので、顔や手のむくみなども招いています。
⑤肩甲骨の後傾による肩甲挙筋のこわばり
右利きの人は左肩甲骨が後傾している場合が多いようです。その原因として最も多く見られますのは、左側の長内転筋がこわばり、それによって左腸骨が後傾して、連動する形で左肩甲骨が後傾している状態です。
骨連動の一つの形として骨盤と肩甲骨は同じように傾く関係があるようです。
右利きの人は右脚に重心が来ますが、すると右脚外側にテンションが掛かるため脛骨が外側に歪み、薄筋と縫工筋がこわばります。縫工筋のこわばりはASISを内側、すなわち右の腸骨がCCWの状態になってPSISが仙骨から離れて前傾します。そして肩甲骨も同様に上外側方に歪んで前傾する(巻き肩)傾向があります。
そして、左腸骨は後傾して仙腸関節が硬くなり、左肩甲骨も後傾して、肩甲挙筋にとっては起始と停止の距離が長くなりますので筋肉が張った状態になります。
この状態を改善して肩甲挙筋のこわばりを解消するためには、第一段階として右半身では長腓骨筋、踵外側、短母指外転筋、円回内筋、烏口腕筋などのこわばりを解消して右腸骨のCCW状態を解除することが必要です。そのためには縫工筋と薄筋の状態が良くなることがポイントになります。(烏口腕筋と縫工筋は連動する)
そして次に、左腸骨の後傾を解消するために、長内転筋~後脛骨筋~母趾外転筋を整える必要があります。
⑥三角筋起始部のこわばりと肩こり
肩上部に感じる肩こりの場合、三角筋の起始部のこわばりを改善することで肩こり状態が楽になる場合があります。
三角筋は手部や前腕からのこわばりが連動してこわばっている場合が通常ですが、そのこわばりとは別に、三角筋自体がこ和針を作っている場合があり、それが肩こりの症状を強くしていることもあるようですので、三角筋自体を指圧などでゆるめることがよいと思います。