上肢への施術③‥‥肘筋のこわばり

 肘関節を安定させるために肘筋があります。とても小さく地味な筋肉ですから、ついつい無視しがちになりますが、肘の安定と上腕三頭筋の状態に影響をもたらします。
 また重要なこととして、肘筋は棘上筋、小殿筋へと連動しますので、いわゆる「肩こり(棘上筋のこわばり)」と股関節の不調に関係することがあります。 また、肘関節に関係する伸筋の中で上腕骨と尺骨に直接繋がっている筋肉は上腕三頭筋(長頭・内側頭)と肘筋になりますので、肘関節の安定にとって肘筋の働きは要になります。

 さて、例えば上腕三頭筋内側頭と長頭がこわばってしまったとします。すると尺骨は上腕骨の方へ引き寄せられます(後方にもずれる)ので、肘筋はゆるんだ状態になります。すると肘筋と連動する棘上筋もゆるんで肩関節が不安定なり、さらに小殿筋がゆるみますので、股関節で大腿骨は少し下がり外旋位になるかもしれません。すると中殿筋がこわばり、それによる影響が腰背部や下肢に及ぶ可能性がでてきます。
 あるいは、上腕三頭筋長頭が何かの理由でゆるんでしまったとします。すると肘筋はこわばりますが、それは棘上筋に連動し、肩こりを感じたり、腋が開いたスタイルになってしまったりします。そして、小殿筋もこわばりますので、大転子が上方に移動して外側に出っ張り股間が開いた状態になってガニ股、あるいはO脚になりやすくなります。(股関節で大腿骨が外転してしまう)
 現にO脚やガニ股の人を調整する場合、小殿筋のこわばりを解消することはとても重要です。何故なら小殿筋の状態によって股関節における大腿骨の向きが決定されてしまうからです。小殿筋がこわばった状態では立位や方向時に膝の内側を使うことはできなくなってしまいます。小殿筋のこわばりが解消されますと、大腿骨は自ずと股関節から膝に向けて内側に向くようになります。すると下肢の外側が張ってしまう(大腿筋膜張筋~腸脛靱帯~腓骨筋のこわばり状態)状態にはならなくなります。これはO脚を改善する上で最も大切なことであると言えます。
 そのためには小殿筋のこわばりを解消する必要があり、その意味で肘関節の肘筋は重要です。

 さて、肘筋がこわばってしまう状況を考えてみます。肘筋は「肘関節を安定させる働きの筋」という特徴を考えますと、それでは「肘関節が不安定の時、肘筋はこわばって頑張る」となります。
 一つは上腕三頭筋がゆるんで肘が不安定になってしまうことが考えられます。他には、屈筋側の上腕筋がこわばったり、ゆるんだりしますとやはり肘関節は不安定になります。(上腕筋の停止は尺骨、上腕二頭筋の停止は橈骨)
 また、前腕の回内位が常態化している人はやはり肘関節が不安定であると考えます。円回内筋、方形回内筋、あるいは手首などを観察し、肘筋の変調との関係を見る必要があります。方形回内筋のこわばりは見過ごされがちですが、肘筋、つまりO脚と密接に関係している場合があります。

 「O脚の成れの果ては変形性膝関節症」と言っても過言ではありません。O脚状態での歩行は内側半月板に負担を掛けますが、高齢化に伴い、やがて内側半月板が変形したり消失したりすることになります。すると、膝関節の内側で大腿骨と脛骨の軟骨が直に摩擦して痛みを発し、やがて軟骨も消失する状態になります。そうなりますと自然回復は極めて難しくなり、人工関節置換手術が残された手段になります。
 そうならないためには、現在O脚状態の人に対して、積極的に「O脚改善に取り組みましょう!」と働きかけてあげるのが正しいと思います。そして施術として行うことは、小殿筋のこわばりを改善して少しずつ膝が内側に入るよう促し、こわばっている内転筋をゆるめ、長趾屈筋のこわばりをゆるめて脛骨のねじれを修正し、足内側の強くこわばっている靱帯をゆるめることです。

 そのために肘筋に着目し、前腕の回内、方形回内筋、手首の歪みなどをチェックすることからアプローチするようにしてください。
 実際、半月板さえ残っていれば、何度か施術を繰り返している内に、あるいても膝に痛みを感じず「楽だわぁ!」と言われる時が来るでしょう。

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