腰痛への施術② 手指への施術

 前回は腰痛に対する足と下腿への施術を中心に考えました。今回は腰痛に対する手指への施術について考えます。
 腰痛に対する基本的な考え方は足~下腿で説明したのとだいたい同じですが、以下の3項目と手指との関係が着目点になります。
①骨盤の歪み、②腰椎の歪み、③腰部筋肉のこわばり

①骨盤の歪みと手指

 骨盤と手指との関係では、その間に上肢、上肢帯(肩甲骨と鎖骨)、胸郭という骨格が介在しますので、いわば「間接的なアプローチによって骨盤修正に迫る」といった考え方になります。
 まず、手指を屈筋側(掌側)と伸筋側に分けて、骨盤の腹側と背側に対する影響をについて考えます。
 そして次に手指を橈骨と尺骨に分けて考え、普段の手指の使い方がどのように骨盤に影響を与えているかを考えながら施術を行います。そして、その他の要因について考えます。(ツボなど)

手指の屈筋側

 母指球は橈側の屈筋側を象徴しています。母指の屈筋側のうち長母指屈筋、短母指屈筋、短母指外転筋は橈骨、腕橈骨筋、橈側手根屈筋と関係が深く、前鋸筋、外腹斜筋の変調に関係します。

 前鋸筋のこわばりは肩甲骨を前外側方にずらしますが、それによって小菱形筋と大菱形筋はこわばることになり、腸骨筋、大腰筋を介して骨盤に影響をもたらします。
 さらに、前鋸筋と連動する大腿筋膜張筋~腸脛靱帯がこわばって脛骨を外側にずらしますが、それによって縫工筋がこわばり、同側のASIS(上前腸骨棘)が内に入ります。それは腸骨が少し回旋している状況ですが、骨盤後面の仙腸関節ではPSIS(上後腸骨棘)が外側に引っ張られて骨盤が不安定になります。これによって腰痛を感じることはよくあるケースです。

 外腹斜筋のこわばりは、胸郭を捻れさせるか、あるいは鼡径部を含め同側のASISを外側にずらすことになります。この現象によって直接、あるいは間接的に骨盤を歪めることになります。また、腸骨陵の後方などでは外腹斜筋のこわばりそのものが腰痛として感じられることもあります。

 手掌で母指に関係する筋肉として、母指内転筋、母指対立筋があります。
 母指内転筋は上腕筋に連動して内腹斜筋に連動しますが、それによって骨盤に影響を及ぼします。そして更に長内転筋に連動します。
 母指内転筋は母指、示指、3指と関係しますので、それらの手指が不安定な場合、変調を起こします。
 母指対立筋は短母指外転筋の深部にあります。母指対立筋は筋連動の仕組みで骨盤に影響を及ぼすというより、母指対立筋の変調によって母指中手骨やCM関節が変位して、それが母指内転筋、その他に影響を与え、間接的に骨盤の歪みに関係すると考えることができます。

 小指球は尺側の屈筋側を象徴しています。短小指屈筋、小指の深指屈筋のこわばりは尺側手根屈筋に連動しますが、上腕二頭筋短頭~大胸筋~腹直筋と連動して骨盤に影響を及ぼします。腹直筋のこわばりによって腰部に張りが生じ、仰臥位で寝ることが辛くなることがあります。このような場合は、上腕二頭筋短頭~小指球~小指先(末節)の屈筋側のこわばりを確認する必要があります。

 

手指の伸筋側

 手の伸筋側に対しては、まず関係する骨と、連動先の筋肉について考えます。
 小指外転筋は尺側手根伸筋~上腕三頭筋長頭に連動して尺骨に関係します。小指外転筋には「腕骨」(ワンコツ)、「陽谷」(ヨウコク)という経穴がありますし、小指末節の外側には「少沢」(しょうたく)という経穴(ツボ)がありますが、これらの経穴は施術すべきポイントとになります。

 何かを掴む動作は屈筋の働きによるものですから短小指屈筋(、小指対立筋)が使われますが、手を強く握るときには小指外転筋も収縮させます。ですから、小指外転筋がこわばっている人は多く、そのこわばりは尺側手根伸筋~上腕三頭筋長頭に繋がっていきます。そして側線1につながり、仙骨の歪みにつながっていきます。

 母指と示指の伸筋である長母指外転筋、長母指伸筋、示指伸筋は尺骨に繋がっています。ですから、尺骨の歪みに直接関係します。

 

 示指と関係する伸筋は長橈側手根伸筋であり、3指と関係する伸筋は短橈側手根伸筋ですが、ともに腕橈骨筋の下方、上腕骨の外側縁を起始としています。そして上腕三頭筋外側頭と連動関係にありますが、その先は棘下筋に連動していきます。ですから、以下のようにまとめることができます。
 腕橈骨筋は橈骨と関係が深く、上腕三頭筋外側頭に連動し、前鋸筋に連動します。
 長橈側手根伸筋は、示指中手骨と関係して上腕三頭筋~棘下筋上部線維に連動しますが、その先側線3(腸肋筋)に連動します。
 短橈側手根伸筋は、3指中手骨と関係して上腕三頭筋~棘下筋下部線維に連動しますが、その先側線2(最長筋)に連動します。
長母指外転筋と短母指外転筋
 母指を外転する筋肉として長母指外転筋(伸筋側)と短母指外転筋(屈筋側)があります。長母指外転筋は尺骨を起始としていますので、長母指伸筋、示指伸筋同様尺骨の状態に影響を与えます。尺骨頭が橈側に近づいている人が時々いますが、それによって肘の状態が悪くなり、上腕の筋肉を変調させて腰痛に繋がってしまうこともあります。
 また、同じ母指の外転筋でも短母指外転筋は腕橈骨筋や円回内筋と関係がありますので、母指をたくさん外転させている人(スマホゲームなど)は、尺骨が変位しているのと同時に橈骨が回内している場合があります。このような人は手首が歪んでいますが、手指全体の状態が悪くなって骨盤の歪みにつながっている場合もあります。

②腰椎の歪みと手指

第6頚椎と第4腰椎の関係

 腰椎の歪みに関しては、先ず頚椎や胸椎の歪みとの関係で考えます。
 第6・7頚椎の関係は第4・5腰椎の関係と似ています。第7頚椎が頚部の土台としてしっかしていてその上に第6頚椎が正しく収まった状態になっていれば、第4・5腰椎もそのようになっている場合が多く、骨盤との関係も良いと考えられます。
 第6頚椎が前方に出て落ち込み(椎体が前傾)首が前に出ているような状態では、腰椎においても同じように第4腰椎椎体が前傾してしまうため、腰椎の前弯が失われて柔軟性を失います。

 第6、7頚椎に関係する筋肉は小菱形筋です。また、斜角筋の変調によって頚椎が歪む場合もあります。さらに目の疲労によって肩甲挙筋が変調して第7頚椎を歪める場合もあります。示指中手骨が不安定になって薄筋がこわばり、小菱形筋と小胸筋がこわばって頚椎が歪む場合もあります。

上部胸椎の歪み

 右利きの人の多くは第3~4胸椎が右に動くかCCWの状態になっていますが、それによって腰椎が捻れる可能性があります。
 腰椎は捻れますと大腰筋に影響を及ぼしますが、それによって股関節がおかしくなったり、腰痛を発症する可能性があります。
 前鋸筋のこわばりは肩甲骨を同側の外側に歪めますが、それによって菱形筋がこわばり、これら上部の胸椎を歪めることがあります。そして前鋸筋は上記でも取り上げましたように、腕橈骨筋、母指、橈骨と関係しますので、それらを確認して対処する必要があります。

③腰部筋肉と手指

 脊柱起立筋と手指との関係は上記で説明しました。
 脊柱固有筋群(側線1)は上腕三頭筋長頭~尺側手根伸筋と関係していて、仙骨の歪みに関係しています。
 脊柱最長筋群(側線2)は棘下筋(下部線維)~上腕三頭筋外側頭~短橈側手根伸筋~3指中手骨と関係しています。
 脊柱腸肋筋群(側線3)は棘下筋(上部線維)~上腕三頭筋外側頭~長橈側手根伸筋~示指中手骨と関係しています。

 腰方形筋は広背筋と関係していますが、広背筋と大円筋は協働筋であり、拮抗関係になることもあります。そして上腕や前腕、手首の捻れなどの影響を受けて変調することがあります。

腰痛に関係する腰退点


 東洋医学で、腰痛に効くツボとして腰退点があります。それは手の第2背側骨間筋と第4背側骨間筋の中にあるポイントですが、筋連動として大腰筋および腸骨筋と関係しています。
 また、大腰筋は大菱形筋と関係していますが、長掌筋と関係があります。転んで手を強く地面に打撲して長掌筋が損傷した影響で大腰筋(大菱形筋)がゆるんで小菱形筋がこわばり萬年肩こり状態という場合もあります。

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