膝関節を整えるために

 膝関節を整える上での基本は、大腿骨と脛骨の関係になりますが、膝蓋骨や腓骨のことも頭に入れつつ検査と施術を行います。

膝関節の観察と施術

 膝関節の歪み方は大きく下記の4通りがあります。細かく捉えますと他にもありますが、通常はこの4通りでこと足りると思います。

  1. 脛骨の外旋
  2. 脛骨の外転
  3. 脛骨の内旋
  4. 脛骨の後方へのずれ

脛骨の外旋

 膝に痛みを感じなくても、脛骨が外旋している人はたくさんいます。
 外側広筋がこわばる、または内側広筋、鵞足(縫工筋、薄筋、半腱様筋)がゆるみ過ぎの状態になると脛骨は外旋します。あるいは、大腿二頭筋長頭がこわばった場合も腓骨を後方に引っ張るために脛骨は外旋する可能性があります。

 外側広筋または大腿二頭筋長頭など大腿骨の外側面にある筋肉がこわばって脛骨が外旋した場合は、内側広筋及び鵞足の筋肉はこわばり、膝関節の内側に痛みを発する可能性が生じます。

 内側広筋または鵞足の筋肉のどれかがゆるみ過ぎの状態になって脛骨が外旋した場合は、外側広筋及び大腿二頭筋長頭がゆるみ過ぎの状態になります。また、ゆるみ過ぎの状態になっている筋肉以外の膝関節内側の筋肉はこわばりますので、膝の内側に痛み発する可能性があります。

 外側広筋がこわばっている場合は、連動する筋肉を観察して原因となっている筋肉の変調を解消します。
 下方(足方)では前脛骨筋、上方では外腹斜筋、三角筋前部線維、上腕二頭筋長頭、橈骨手根屈筋、短母指屈筋と連動しますので、それらを観察するとともに股関節、肩関節、肘関節、手関節(手首)の状態も関節して適切な施術を行います。

 縫工筋がゆるんでいる場合は、起始部である上前腸骨棘(ASIS)及び骨盤(腸骨)の歪みの状況をまず確認します。ASISが内・下方に歪んでいる場合は、縫工筋はゆるみます。
 筋連動としては烏口腕筋、足の第3背側骨間筋などと関係がありますので、それらを観察するとともに適切な施術を行います。
 なお、烏口腕筋は肩甲骨烏口突起を介して上腕二頭筋短頭、小胸筋と密接に関係しますので、そのことも頭に入れて施術を行ってください。

 薄筋がゆるんでいる場合は、起始部である恥骨、つまり骨盤の状態を確認する必要があります。そして連動する短母趾屈筋(長母趾屈筋と拮抗)の状態、立方骨の状態などもしっかり確認する必要があります。
 また、上方では腸骨筋、小胸筋と連動し、手の第4背側骨間筋とも関係しますので、その辺りをしっかりチェックする必要があります。
 小胸筋は肩甲骨烏口突起を介して上腕二頭筋短頭、烏口腕筋と影響し合っていますし、そしゃく筋とも関係しますので、そのことも頭に入れておく必要があります。

 半腱様筋がゆるんでいる場合は、坐骨結節との関係、下方での連動筋である腓腹筋外側頭や短趾屈筋との関係、大殿筋、背中の側線3、僧帽筋上部線維、肩甲骨の棘下筋、上腕三頭筋外側頭などとの関連性を確認する必要があります。
 また半膜様筋とも拮抗することがありますので、それも頭に入れておく必要があります。

 内側広筋がゆるんでいる場合は、脛骨前面の内側筋膜や足首との関係を確認します。上方では腹直筋の中央部(腹線1)と密接に関係します。胸骨が下がって腹線1がゆるんで内側広筋がゆるみ過ぎの状態になってしまうことはよくあることです。その場合、胸鎖乳突筋、胸骨舌骨筋など胸骨に関係する筋肉を確認する必要もあります。
 上肢では尺側手根屈筋や短小指屈筋、尺骨とも関係しますので、それらを確認する必要があります。

脛骨の外転

 脛骨が外転位にある人はかなり多いですが、腓骨が外転していることで脛骨も同時に外転している場合が多いかもしれません。内側側副靱帯が伸びた状態になっている場合、膝裏の膝窩筋がこわばった状態になっている場合などは、腓骨に関係なく脛骨が外転します。また、O脚の人のほとんどは脛骨が外転しています。

 腸脛靱帯がこわばりますと腓骨を外側上方に引き上げますので、腓骨が外転すると共に脛骨も外転します。少し動き方は違いますが、大腿二頭筋短頭がこわばっても脛骨は外転します。
 腸脛靱帯は大腿筋膜張筋を延長した存在ですから、からだの外側面の筋肉である長腓骨筋、前鋸筋、三角筋中部線維、上腕三頭筋外側頭、腕橈骨筋、短母指外転筋と連動します。手の使い方が悪くて母指先のこわばりが強い場合などは短母指外転筋~腕橈骨筋~前鋸筋がこわばった状態になります。また、直接前鋸筋を施術しなければならない場合もあります。

 大腿二頭筋短頭は下方ではヒラメ筋外側頭や小趾外転筋、上方では中殿筋、腰方形筋、広背筋などと深い関係があります。

 鵞足は脛骨の外転や内転よりも回旋に影響力が強い存在ですが、鵞足のどれかがゆるみ過ぎの状態になり、かつ膝窩筋がこわばった状態になりますと、脛骨の外転が大きくなる可能性があります。
 X脚の人、内側側副靱帯の伸びてしまっている人は、膝関節の内側が伸びた状態になりますので脛骨は外旋します。

脛骨の内旋

 脛骨の外旋と反対の状況ですから、外側広筋や大腿二頭筋長頭がゆるみ過ぎの状態になったり、鵞足のどれかがこわばりますと脛骨は内旋します。また、膝窩筋がこわばっても脛骨は内旋しますが、この場合は脛骨の外転も同時に起こります。
 膝窩筋は、上方で小殿筋、肘筋、棘上筋と連動関係にありますが、O脚を修正する場合にはこれらの筋肉を整える必要があります。

脛骨の後方へのずれ

 脛骨が後方にずれる理由の多くは、膝前面の中間広筋がゆるみ過ぎの状態になっているか、膝裏でハムスト及び腓腹筋がこわばっていることでです。
 その他には内側広筋や縫工筋のゆるみ過ぎで起こる場合もありますが、この場合は脛骨の内側のみ後方にずれますのが、脛骨の内旋と間違いやすいので注意が必要です。
 膝窩筋はこわばると脛骨を内旋させますが、同時に内側広筋や縫工筋がゆるみ過ぎの状態になりますと、脛骨の内旋が強調されます。そしてこの状態はO脚で膝小僧(膝蓋骨)も内側に向いてしまっているような人に多く見られます。

 中間広筋がゆるみ過ぎの状態になりますと、膝関節を支える力が発揮できなくなりますので、下り坂や階段を降りる動作が辛くなります。中間広筋は短母趾伸筋や短趾伸筋、恥骨筋と連動しますので、足や足首の状態、股関節の状態によって影響を受けます。

 かかと重心の人はふくらはぎ(腓腹筋)がこわばります。するとハムストの筋肉も連動してこわばった状態になりますが、膝裏も腫れぼったい状態になって脛骨が後方にずれることになります。このような場合は、腓腹筋のこわばりを解消する施術も必要ですが、それだけでなく、かかと重心を改善する施術も必要になります。

膝関節の痛み

 「曲げると痛む」「伸ばすと痛む」というのは、筋肉がこわばり状態(縮みたがっている)なのに強制的に伸ばされるので痛みを発する状況です。
 「力を入れようとすると痛む」「痛くて支えられない」というのは、筋肉がゆるみ過ぎの状態で筋力を発揮することができないために、他のところに負担が掛かって痛みを発するという状況です。
 この二つの大きな違いを常に念頭におきながら、観察(検査)、そして施術を行わう必要があります。

こわばりを伸ばされて痛みを発する場合

 正座ができない、怖くて膝を曲げられない、椅子に座っているとチクチクしたりジンジンしたり痛みを感じたりするといった症状があります。このような場合は、こわばりが邪魔して満足に屈曲ができない状態であると考えられます。

①「膝を曲げると関節の内側が痛む」というのはよくある状況はですが、脛骨が外旋しているために鵞足のところにこわばりができて痛むというのが典型的です。
 また、鵞足や内側広筋がこわばっているために脛骨が内旋して膝の外側に痛みを発するということもあります。

②「膝を伸ばすと痛む」という場合は、痛む場所によって状況が違います。
 膝の裏側が痛む場合は膝窩筋を確認する必要がありますが、その他に拮抗関係にある腓腹筋の外側頭と内側頭の状態、半腱様筋と半膜様筋、大腿二頭筋の長頭と短頭の状態などを確認する必要があるかもしれません。
 膝の内側が痛む場合は、内側広筋、縫工筋、半腱様筋のこわばりを確認します。あるいは大腿四頭筋が収縮できなくて(ゆるみ過ぎの状態)膝前面に痛みを発することもあります。

③「深く曲げることができない」という場合は、長趾屈筋のこわばりや足関節の靱帯の硬さが影響している場合もあります。
 また、中間広筋をはじめ膝関節周辺の筋・筋膜が傷んでいたり、非常にゆるんでいるなどの理由で膝関節が非常に不安定な状態になっている場合もあります。
 さらに、腓腹筋内側頭は膝を曲げるときには伸張しますので、こわばりがあると伸張できないので痛みを発したり、「これ以上曲げることができない」という状況になることがあります。

ゆるみ過ぎのために支えることができなので痛みを発する場合

 「階段を昇ることはできても、降りるのが苦手」というのは膝の状態の悪い人によく見られる状況です。上りと下りでは主として使う筋肉が異なりますので、このような現象が起こります。
 大腿四頭筋で言えば、上りのときに主体として働く筋肉は大腿直筋と内側広筋です。下りのときに主体として働く筋肉は中間広筋と外側広筋です。

①中間広筋のゆるみ過ぎ状態
 中間広筋はからだの芯の力を現している筋肉であると考えられます。ですから、体力を判断する目安として、中間広筋の筋力テストをしばしば行います。

 階段をゆっくり降りることができない、膝を深く曲げた状態や正座などの状態から立ち上がるのが容易でない、歩いていると膝の奥(中)が痛む(中間広筋の「ゆ」による膝関節の不安定さ)などが中間広筋のゆるみ過ぎ状態の典型例です。
 中間広筋がゆるみ過ぎ状態にある人は、階段を一段ずつ両足を揃えるようにして降りたり、反対に音をたてて駆け下りるようにトントン降りて行ってしまいますが、それは膝に粘る力がないからです。

②靱帯の損傷や疲弊による関節の不安定
 膝関節には関節を安定させるための前十字靱帯と後十字靱帯、外側側副靱帯と内側側副靱帯がありますが、捻挫や強い打撲などによってこれらが損傷したり疲弊しますと関節が非常に不安定になります。
 グラグラした状態ですから、膝周辺の筋肉はこわばります。それによって屈曲や伸展がスムーズにできなかったり、運動時に痛みを発したりします。また、荷重に耐えることもできなくなりますので、歩くことも満足にできなくなったりします。
 また、半月板の状態が悪化しますと変形性膝関節症と診断されるようになり、O脚が進行して、膝の痛みが激しくなります。

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