そしゃく筋の概要
咀嚼(そしゃく)は哺乳動物の一番の特徴です。哺乳は、乳児が唇と頬の筋肉とそしゃく筋と舌などを駆使して行う行為ですが、母親の乳頭を通して、栄養を補給するという側面と、そしゃく筋などを一生懸命使っているという側面があります。
哺乳動物にとって唇(口)を閉じ、舌と頬の筋肉とそしゃく筋を使って食物をそしゃくする運動は根源的な運動ですから非常に重要です。その意味で、そしゃく筋について、表情筋について、舌について、嚥下について学び、関連する筋肉や構造を整えることはセラピストの仕事として非常に重要です。
草食動物である牛は口を閉じてモグモグと草を食べ続けます。私たちは肉や魚類も食べる雑食ですが、奥歯は臼状になっていて食物をすりつぶして食べるのに適するようになっています。
口の中に食物が入っている状態で喋る習慣のある人はモグモグではなく、クチャクチャ噛んでいる人です。そしゃく筋を鍛えるためにガムを噛むことは一つの方法ですが、口を閉じてモグモグ噛まないと効果はそれほど得られません。
リラックスした時の在るべき正しい状態は、口を閉じた状態で鼻で呼吸することができ、奥歯は少し離れた状態で、舌先が上歯と口蓋の境辺りに当たっている状態です。そして、舌が口蓋に貼りついて口腔を塞ぐような状態になっていることが理想的です。そうであれば、そしゃく筋を使わなくても口を閉じていることができますので、からだはリラックスした状態を保つことができます。そしゃく筋を考えるとき、いつもこのことを念頭において考えてください。
歯ぎしり癖や噛みしめ癖などによって、そしゃく筋はこわばりますが、筋肉連動の関係から、胸鎖乳突筋や斜角筋もこわばることになります。
首の前面から鎖骨に掛けて「突っ張って痛む」という場合は、前斜角筋のこわばりであり、その原因は噛みしめ癖などによる咬筋のこわばりが連動したものである可能性が高いと考えられます。
また、そしゃく筋は全身筋肉の司令塔のような役割をしますので、ご飯をあまり噛むことがないためそしゃく筋がゆるんでしまったり、ボトックス注射で咬筋が収縮しづらい状況になったりしますと、全身の筋肉がゆるみますので、からだをしっかり支えることができなくなったりします。
「こわばると頭痛や首の痛み、浅い呼吸で苦しみ、ゆるむと全身が支えられなくなって活力の乏しいからだになってしまう」‥‥これがそしゃく筋です。
咬筋と側頭筋
咬筋
長四角形の大きな筋で、外層(浅部)・内層(深部)の2層からなっています。
浅部は頬骨弓の前部および中部から起こって後下方に向かい、深部は頬骨弓の中部および後部ならびに内面から起こってほとんど垂直に下ります。停止は下顎枝および下顎角の外面で、浅部は咬筋粗面の下部、深部はその上部です。
収縮することで下顎を挙上する強力な筋肉です。下顎の前方突出にも働きます。
側頭筋
側頭部にあるやや扁平な筋で、前方の筋線維は垂直に下るが、後方のものは前下方へ斜めに向かいます。この筋肉が収縮することで下顎骨が上に上がり、咬むことができる他、下顎骨を後方に移動させることができます。
側頭骨の側頭面前部および側頭筋膜の内面から起こり、下前方に向かって集まり筋束となって下顎骨の筋突起、下顎枝(その内側まで)に停止します。
収縮することで下顎を挙上し、かつそれを後方に引きます。(後方線維)
こわばると側頭部の頭痛や片頭痛を招きます。
翼突筋‥‥体表から直接触れることは難しい
内側翼突筋
口腔内にあって、蝶形骨と下顎骨(内側面)を繋ぐ翼状の筋肉です。片側のみが収縮することで下顎骨が反対側に動き、両側が収縮することで下顎骨が前方に動きます。
蝶形骨の翼状突起後面の翼突窩から起こり、後下方に走って下顎骨内面の翼突粗面に停止します。
収縮することで下顎を挙上し、かつ反対側に引きます。
側翼突筋の緊張によって耳管の閉塞感がもたらされる可能性があります。
外側翼突筋
顎関節のところで僅かに触診することができます。上頭と下頭の2頭があります。
蝶形骨の外側面から起こって後方に向かい、顎関節の関節包、関節円板、下顎骨の関節突起に停止します。
一側だけ働くと下顎骨の前部は反対側に動き、両側が働くと下顎骨全体が前方に動いて口を開きます。(顎関節のロックを外す働き)