下腿と足部への施術①‥下腿内側面

 下腿(レッグ)への施術は、その深部に足趾の先端につながる屈筋(長母趾屈筋と長趾屈筋)の起始と筋腹があるという意味で重要です。
 踵骨から腓腹筋の筋腱移行部辺りにかけての内側面が硬くなっている人がたくさんいます。そして、その影響を受けて踵骨が内側に倒れている(内返し)人もたくさんいます。
 このような状態ではしっかり安定して立つことが難しくなりますし、小趾側に重心が逃げてしまいます。そして、その影響で腓骨筋や腸脛靱帯、前鋸筋、腕橈骨筋といった体側面の筋肉がこわばってしまい、O脚や膝の問題、股関節の拡がり、母指と示指を中心に手を使うようになって、脇が開いて首・肩・顔に力が入ってしまうという問題を招いてしまう可能性が高まります。

 下腿の内側面に柔軟性を取り戻し、足全体でしっかりと安定してたてるようになるために、足首周辺からその上部の内側面に対する施術のポイントを考えてみます。

施術のキーワードとして以下が挙げられます。
①長趾屈筋
②後脛骨筋
③三陰交
④照海および三角靱帯(脛踵靱帯と脛舟靱帯と前脛距靱帯と後脛距靱帯)
⑤屈筋支帯と踵骨を覆う筋膜
⑥母趾指外転筋と母趾先

①長趾屈筋

 起始は脛骨後面の中央1/3で、停止は第2~5末節骨底です。
 足関節の踵骨直上部からヒラメ筋までの間で筋腹に触ることができますが、こわばっている人が多く、皮下組織も含めてこの部分が非常に硬くなっていたり腫れている人もいます。
 直接この部分を指圧してゆるめることもできますが、こわばりが強い場合は「立て膝」の状態にして、ヒラメ筋と腓腹筋がゆるんだ状態で奥に手指を差し込み長趾屈筋の起始部から圧することが有効な場合もあります。また、第2~5趾の先をゆるめることで筋腹がゆるむこともあります。
 後で説明します三陰交を刺激することでゆるむ場合もあります。

②後脛骨筋

 起始は脛骨裏面と腓骨と、その間にあります骨間膜で、停止は舟状骨、楔状骨、第2~4中足骨底です。ヒラメ筋にすっかり覆われていますので、筋腹のほとんどには直に触ることはできません。
 但し、直接触ることができなくても、意識を集中して施術を行うことで変調が緩和することは十分にありますので、自分の集中力とフォーカス力を鍛えるために、「触れないけど、ゆるむのを感じる」ことを行ってください。

③三陰交

 三陰交は東洋医学において、とても有名な経穴(ツボ)の一つです。東洋医学における三つの陰経(肝経、脾経、腎経)が近づくところなので、「経絡が交叉するところ」とも考えられています。
 三陰交は特に女性にとって有効な施術点であるとされていますが、それは脛骨内側から後脛骨筋が現れるポイントに近く、長趾屈筋とも関係があるようです。
 実際、三陰交から踵骨にかけて長趾屈筋と後脛骨筋と皮下組織やアキレス腱がコチコチに硬くなっている場合、三陰交を適切に指圧することで硬さが緩和して柔らかさが戻ります。(気血の流れが改善する、ときっと東洋医学では考えるのでしょう)
 次に取り上げる照海とともに、下腿内側面を整えるときには施術をすべきポイントです。

④照海および三角靱帯

 三陰交は脾経の経穴ですが、内果の直下にあります照海は腎経の経穴です。照海の効能効果としましては不眠、喉の腫れ、扁桃腺、ドライアイ、目の痛み、月経不順など婦人科系の問題、足首の痛み、腫れがあるとされています。

 三角靱帯が硬くなっている人がたくさんいます。特に内果直下にある脛踵靱帯がこわばっていますと足を内返しした状態と同じようになりますので、立位やその他の姿勢に影響を及ぼします。
 また、脛骨の内側面は足の内側面に向かって、長趾屈筋、後脛骨筋、三陰交、三角靱帯(照海)と、一連の流れとして繋がっていきますが、この部位の循環を高めてリラックスさせるには三角靱帯への施術を欠かすことはできません。そして照海は脛踵靱帯の奥の骨のところにありますので、痛みを伴っても三角靱帯は十分に施術する必要があります。

⑤屈筋支帯と踵骨を覆う筋膜

 後脛骨筋腱、長趾屈筋腱、長母趾屈筋腱を保護して、それらの働きが順調に行われるように屈筋支帯が内果から踵骨内側面にかけて存在しています。
 また、アキレス腱の終末は踵骨を覆う筋膜に延長されていますが、踵骨内側面では屈筋支帯と同居するような状態になっています。踵後面に近い部分は腓腹筋内側頭に関係する筋膜であり、内果に近い部分はヒラメ筋(内側)に関係する筋膜です。これらの筋膜は腓腹筋内側頭やヒラメ筋の変調と密接に関係しています。ですから、踵骨の内側面に対する施術は、上記三つの腱およびそれらの筋と腓腹筋、ヒラメ筋を意識しながら行う必要があります。

⑥母指外転筋と母趾先

 母趾外転筋は後脛骨筋と密接に連動しますので、後脛骨筋および長内転筋の変調を整えようとする時には十分に状態を確認しながら丁寧に整える必要がある筋肉です。
 「外反母趾が痛む」という場合は、母趾外転筋のこわばりが強くて痛みや炎症を出している場合が殆どです。ですから母趾外転筋のこわばり状態が快勝されれば、形として外反母趾状態であったとしても痛みや炎症は速やかに治まります。

 母趾外転筋がこわばる理由の一つとして「母趾を捻って使っている」というのがあります。あるいは、母趾外転筋がこわばっている人の殆どは母趾先が捻れています。
 そのため母趾末節では、2趾側(外側)に硬結がありますが、それをゆるめることで母趾外転筋~後脛骨筋~長内転筋のこわばりが緩和します。但し、この硬結をゆるめるための指圧は非常に強い痛みを伴いますので、加減が必要です。


 下肢の内側面には大伏在静脈があります。ふくらはぎの後面にある小伏在静脈とともに下肢のむくみや冷えに深く関係する静脈です。下腿内側面が硬くなっているということは大伏在静脈の流れを悪くする原因になりますので、下半身のむくみや冷えを訴える人に対しては、大腿内側面の内転筋群とともに今回のテーマである下腿内側部を整えることが重要です。
 「硬い」からといってたくさん揉みほぐしてみても、そう簡単に柔らかくなるものでもありませんし、仮に一時的に柔らかくなったとしてもすぐに元に戻ってしまいます。筋肉のこと、経穴のこと、それらをしっかり頭に入れて適切に対応できるようになってください。

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